2016年、Nulbarichは突如として音楽シーンにその姿を現した。
当初、フロントマンであるJQが顔出しに消極的だったため、メディアからは覆面バンドと認識されている節があったように思う。
(例えるならMAN WITH A MISSIONのような)
しかし、彼らが発表した音楽は従来のロックでもJ-POPでもなかった…。
今回は、そんなNulbarichのファーストアルバム「Guess Who?」を解説します。
鮮烈なデビュー作「Guess Who?」
先進技術とDIY精神が生んだ、懐かしくも新しいサウンド
「Guess Who?」に収められた楽曲は、構成こそ「Aメロ~Bメロ~サビ」といった従来のポップソングを踏襲しているものの、そのサウンドからはアシッド・ジャズやファンクなど、ブラックミュージックのテイストが強く感じられる。
いわゆる「オールディーズ」と揶揄されていたジャンルの音楽を、現代版にアップデートさせた音像なのだ。
こうした音楽は本来、演奏者同士の有機的なグルーヴが肝となるため、多数の、それも相当な手練れのプレイヤーが必要なジャンルとしても知られている。
しかし、JQはたった一人の力でリスナーの耳に耐えうるクオリティにまで押し上げた。
それを可能にしたのがDTM(Desk Top Music)だ。
※パソコンを使用した音楽作成、編集の総称。
2010年以降、DTMは飛躍的な進化を遂げており、楽器ごとの細かなニュアンスや質感に至るまで、緻密な編集が可能に。
加えて、個人向けPCのスペックは右肩上がりに上昇。
大容量の音楽データ処理も難なくこなせるようになった。
DTMとPC。
この2つの進化によって、プロとアマの制作環境の差はどんどん縮まり、トラックメイカーだったJQが、作曲から編集までを一人で行い、メジャーアーティストと比べても遜色ない高品質な音楽を生み出すことができたのである。
「Chill」なボーカリスト、JQ
JQの歌唱は技術的な面を主張することなく、常にリラックスした柔らかい印象を受ける。
また、英語と日本語が入り混じった歌詞は独特な聴き心地となっており、歌唱と歌詞の相乗効果によって聴き手をレイドバックした気分に浸らせていく。
これはまだ「Chill」という言葉が一般的に使われる前のことだ。
そういった意味でもNulbarichは時代の一歩「先」を行っていた。
こうしたスタイルについて、JQは過去のインタビューでこう語っている。
歌詞に関しては、意味が直接伝わることよりも耳当たりの良さだったり、メロディーへの乗せ方がキモだと思っていて…
…楽曲の中で〈これが俺の気持ちです〉と押し出すのはナンセンスだと思っているし、歌詞を読んでどう感じてくれるかは人それぞれでいい
これは邦楽よりもむしろ洋楽的なアプローチに近く、情感を込め過ぎない歌声にピンとこない人もいるだろう。
しかし、騙されたと思ってもう一度、歌詞を見ながら楽曲を聴いてみて欲しい。
きっと新しい音楽体験が待っている筈だ。
アルバムタイトルについて
「Guess Who?」は直訳すると「誰だと思う?」
今風に言えば「お前、誰?」といったところだろうか。
当時は、メンバー構成や人数はおろか、中心人物であるJQの顔も明かされておらず、公式キャラクター「ナルバリくん」を用いたキービジュアルだったことも相まって、その存在自体を疑ってしまうほどの匿名性の高さだった。
まさに「お前、誰?」状態。

何故、こんな皮肉めいたタイトルを冠したのか?
それはNulbarichが「何も手にしていない」現状から、リスナーや認知を獲得していこうとする強い意志、つまり音楽シーンへ向けた自己紹介という逆説的な意味が込められていたからだろう。
そして「Guess Who?」がリリースされると、早耳な音楽リスナー達からの注目を集め、バンド初のワンマンライブは即日完売。
さらに、収録楽曲「NEW ERA」が、Honda「GRACE」のCMソングに起用されることに。
文字通り、ここから全てが始まったのだ。
Nulbarich「Guess Who?」おすすめの3曲
NEW ERA
アルバムのリードトラックにして、バンドキャリアを代表する楽曲。
たとえNulbarichの存在を認識していない人でも、一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。
ゆったりとしたビートにメロウなサウンド、肩肘張らない歌唱。
Nulbarichの特徴が全て詰まった楽曲となっており、聴けば誰もが、突き抜けるような爽快感と多幸感に包まれること間違いなし。
また、その時々のライブによってアレンジが激変することでも有名で、ライブを重ねるごとに成長してきた楽曲と言っても過言ではないだろう。
中でも「The First Take」で魅せた、間奏部分のハードなギターリフが特徴的なパフォーマンスは、圧巻の一言に尽きる。
Spread Butter On My Bread
「Spread Butter On My Bread」も「NEW ERA」同様、バンドの活動初期を代表する楽曲のひとつ。
低音の鍵盤で奏でられるフレーズとねっとりとしたベースが先導するサウンドは、D’ANGELOを彷彿とさせるネオソウルっぽい質感。
また、ライブではほぼ即興音楽の様相を見せるのが最大の特徴で、ときに感情的に、ときに話すように歌う自由なボーカルスタイルは、まさにD’ANGELOそのものだった。
※こちらのライブ音源は「H.O.T」以降、初回限定盤の特典CDに収録されているが、現在は入手困難
Nulbarichのバンドとしての気概を感じることができる、数少ない楽曲と言えるだろう。
Hometown
「Hometown」はNulbarich初めてのシングルだ。
グルーヴィーでファンキーなブラックミュージックが基軸となっている楽曲で、そのサウンドは驚くほど洗練されていて、都会的。
特に壮大なホーンの音色とJQによる伸びやかなボーカルが秀逸で、冒頭から楽曲の世界にグッと引き込まれていく。
2024年の活動休止まで通底する「何もないけど(愛、思想、行動、感情などで)満たされる」というテーマを掲げたNulbarichの所信表明であり、のちの活動における道標となった楽曲である。
Nulbarich「Guess Who?」TrackList
01. Guess Who? (Intro)
02. NEW ERA
03. SMILE
04. Spread Butter On My Bread
05. Lipstick
06. I Bet We’ll Be Beautiful
07. LIFE
08. Hometown
09. Everybody Knows
10. NEW ERA (English Version)
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